【令和8年熊本地震】寄附・災害支援の税務まとめ——個人の寄附金控除・法人の損金算入・災害見舞金の扱いを税理士が解説

2026年7月28日、熊本県を震源とする最大震度7の地震が発生し、災害救助法が適用されました。被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。こうしたとき、「何か力になりたい」と考える個人・企業の方は多いはずです。本記事では、寄附・支援を行う側の税務上の取扱いを、個人の場合・法人の場合・その他の支援方法に分けて、税理士の視点で整理します。せっかくの善意を無駄にしないため、控除や損金算入の要件・手続きを正しく押さえておきましょう。

はじめに:本記事は「支援する側」の税務の解説です

本記事は、寄附・支援を行う個人・法人向けの税務解説です。被災された方ご自身の税務上の措置(雑損控除、災害減免法による所得税の軽減免除、申告・納付期限の延長など)は別の論点となります。被災された方は、最寄りの税務署または当事務所へ個別にご相談ください。

1. 個人が寄附する場合——寄附金控除で税負担が軽くなる

個人が支出した義援金等が「特定寄附金」に該当するものであれば、確定申告により寄附金控除(所得控除)の対象となります。過去の災害における国税庁の取扱いを踏まえると、次のような寄附先が特定寄附金に該当します。

① 被災地の地方公共団体・災害対策本部

被災した県・市町村や、そこに設置された災害対策本部に直接支払う義援金。地方公共団体に対する寄附金にあたります。

② 日本赤十字社・中央共同募金会(赤い羽根)等の義援金口座

最終的に国や地方公共団体(義援金配分委員会)に拠出されることが確認された募金団体の義援金口座への寄附。

③ 認定NPO法人等への寄附

国税庁の認定を受けた「認定NPO法人」が行う特定非営利活動に係る事業に関連する寄附。この場合は所得控除に代えて、より有利になることが多い寄附金特別控除(税額控除)を選択できる場合があります。

出典:
国税庁「1 寄附をした個人・法人の課税関係」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/saigai/higashinihon/gienkin/faq/answer1.htm
熊本国税局「義援金に関する税務上の取扱いFAQ」https://www.nta.go.jp/about/organization/kumamoto/topics/saigai/160422/06.htm(過去の平成28年熊本地震時のもの。最終確認日:2026年7月30日)

控除額の計算——所得税と住民税の両方が軽くなる

特定寄附金に該当する場合、所得税と個人住民税の両面で控除が受けられます。特に地方公共団体への義援金は「ふるさと納税」扱いとなり、住民税の特例控除まで受けられるのが大きなポイントです。

① 所得税(寄附金控除・所得控除)

次の式で計算した金額が所得控除されます。

(その年の特定寄附金の合計額 - 2,000円)= 寄附金控除額

※特定寄附金の合計額は総所得金額等の40%が上限です。控除額に所得税率を掛けた分だけ、所得税が軽くなります。

② 個人住民税(基本控除)

(寄附金額 - 2,000円)× 10% = 税額控除額

※住民税の控除対象となる寄附金は、原則として総所得金額等の30%が上限です。都道府県・市区町村が条例で指定した寄附先が対象となります。

③ 個人住民税(特例控除/ふるさと納税分)

寄附先が地方公共団体(ふるさと納税に該当)の場合は、②に加えて特例控除が受けられ、原則として自己負担2,000円を除いた全額が所得税・住民税から控除されます(特例控除は個人住民税所得割額の20%が限度)。

出典:
国税庁「No.1155 ふるさと納税(寄附金控除)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1155.htm
国税庁「寄附金控除の額について」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/saigai/h30/0018008-048/013.htm(最終確認日:2026年7月30日)

「特定寄附金=ふるさと納税」ではない——寄附先で控除範囲が変わる

ここで誤解が生じやすいのが、「特定寄附金ならすべてふるさと納税扱いになる」わけではないという点です。上記③の特例控除(自己負担2,000円を除き実質全額が控除される仕組み)が受けられるのは、寄附先が地方公共団体である場合に限られます。認定NPO法人などへの寄附は特定寄附金であっても、この特例控除の対象にはなりません。災害寄附の主な寄附先について、どこまで控除が届くかを整理すると次のとおりです。

控除の種類被災自治体・災害対策本部
(ふるさと納税に該当)
認定NPO法人等
(自治体の条例指定あり)
所得税の寄附金控除/寄附金特別控除
住民税の基本控除(10%)○(条例指定が必要)
住民税の特例控除(実質2,000円負担で全額控除)

つまり、被災した県・市町村や災害対策本部への義援金(および最終的にそこへ拠出される日本赤十字社・共同募金会の「義援金」口座)はふるさと納税として特例控除まで受けられる一方、認定NPO法人や「支援金」への寄附は、所得税の控除は受けられても住民税の特例控除は受けられない、という違いがあります。

出典:総務省「ふるさと納税以外の寄附金税制」https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/79172_2_kojin.html(住民税の基本控除・特例控除の適用範囲。最終確認日:2026年7月30日)

実務メモ:住民税の基本控除には「条例指定」が必要

認定NPO法人等への寄附で住民税の基本控除(10%)を受けるには、お住まいの都道府県・市区町村がその寄附先を条例で指定していることが前提です(都道府県指定分4%・市区町村指定分6%)。指定の有無は自治体によって異なるため、住民税の控除まで見込む場合は、寄附前にお住まいの自治体の指定状況を確認しておくと確実です。

実務メモ:地方公共団体への義援金はワンストップ特例が使える場合も

被災自治体や県の災害対策本部へ直接支払った義援金は「ふるさと納税」に該当するため、確定申告をしない給与所得者は、寄附先が年間5団体以内などの要件を満たせばワンストップ特例制度を利用できる場合があります。ただし、医療費控除などで確定申告をする方は特例が使えず、確定申告に含める必要があります。また、日本赤十字社や共同募金会の「義援金」口座は自治体扱いでも、同じ団体の「NPO・ボランティア支援」口座は指定寄附金・別扱いとなるなど、口座によって取扱いが変わる点に注意が必要です。

領収書(受領証)は必ず保管を

寄附金控除・寄附金特別控除の適用を受けるには、確定申告書に寄附先が発行する領収書等(受領を証する書類)を添付または提示する必要があります。コンビニ募金や街頭募金など領収書が出ない寄附は、控除の対象にできないことが一般的です。控除を受けたい場合は、振込控えや受領証が残る方法を選びましょう。

2. 法人が寄附する場合——全額損金になるかどうかが分かれ目

法人の寄附は、寄附先の区分によって損金算入の範囲が大きく変わります。ここが法人税実務の要注意ポイントです。

寄附先の区分損金算入の取扱い
国・地方公共団体に対する寄附金
(被災自治体・災害対策本部への義援金等)
原則として支出全額が損金算入
指定寄附金
(財務大臣が指定した募金等)
原則として支出全額が損金算入
特定公益増進法人・認定NPO法人等への寄附金一般の寄附金とは別枠の特別損金算入限度額の範囲内で損金算入
上記以外の一般の寄附金資本金等・所得金額を基礎とした損金算入限度額の範囲内でのみ損金算入

出典:国税庁「No.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5281.htm(最終確認日:2026年7月30日)

過去の災害における国税庁FAQでは、日本赤十字社や中央共同募金会などの「義援金」口座に支払い、それが最終的に国・地方公共団体(義援金配分委員会)に拠出されるものは「国等に対する寄附金」に該当し、全額が損金算入とされてきました。一方、同じ団体でも「ボランティア・NPO活動支援」の口座は指定寄附金として扱われるなど、口座により根拠が異なります。いずれも全額損金となる点は同じですが、「どの口座に払ったか」で税務上の根拠が変わるため、振込先の名称を控えておくことが大切です。

出典:国税庁「1 寄附をした個人・法人の課税関係」(義援金口座と指定寄附金口座の区分)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/saigai/higashinihon/gienkin/faq/answer1.htm(最終確認日:2026年7月30日)

実務メモ:「損金算入時期」は”支出した事業年度”

寄附金は、原則として現実に支払った事業年度の損金となります(未払計上は原則不可)。決算期末が近い法人が「今期の利益対策も兼ねて」と考える場合、期末までに実際の払込みを完了させる必要があります。振込のタイミングにご注意ください。

3. 取引先への「災害見舞金」——寄附金でも交際費でもない

被災した取引先を直接支援したいケースもあります。この場合、税務上の扱いは義援金とは異なります。国税庁FAQでは、法人が被災した取引先に対し、被災前の取引関係の維持・回復を目的として、復旧過程にある期間に支出する災害見舞金は、交際費等に該当せず損金算入できるとされています。

通常、特定の相手への金銭供与は寄附金や交際費となり損金算入に制限がかかりますが、災害見舞金は「事業上の必要性に基づく費用」として、これらとは別に損金算入が認められる点が特徴です。取引先の事業再開を支える見舞金は、税務上もこうした配慮がなされています。

出典:熊本国税局「義援金に関する税務上の取扱いFAQ」(被災した取引先に対する災害見舞金・過去の平成28年熊本地震時のもの)https://www.nta.go.jp/about/organization/kumamoto/topics/saigai/160422/06.htm(最終確認日:2026年7月30日)

実務メモ:見舞金は「常識的な範囲」で、記録を残す

災害見舞金として損金算入が認められるのは、あくまで社会通念上相当と認められる金額の範囲です。金額の妥当性や、相手が取引先であること、支出の目的(取引関係の維持・回復)が後から説明できるよう、稟議書・見舞金の趣旨がわかる書類を残しておくと安心です。

4. お金以外の支援——物資の寄附という選択肢

支援は金銭に限りません。自社製品や在庫を被災地へ提供する「物資寄附」も有力な選択肢です。法人が国・地方公共団体等に対して自社商品などを提供した場合、その物資(時価相当額)を寄附した事業年度の損金に算入できると整理されています。

会計処理上は、提供した商品の時価を寄附金として計上し、同額を売上に計上する形が一般的です。なお、こうした国等への資産の贈与は、消費税法上、対価を得て行う取引にはあたらないため課税対象外(不課税)となります。自社の在庫を活かした支援は、資金負担を抑えつつ被災地に貢献できる方法です。

出典:法人税法第37条・法人税基本通達9-4-6等に基づく一般的な取扱い(国等に対する現物寄附)。個別の処理は国税庁「寄附金・義援金」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/saigai/higashinihon/gienkin/index.htmおよび税務署でご確認ください(最終確認日:2026年7月30日)

「支援金」と「義援金」は目的も税務も別物

被災者へ公平に分配される「義援金」に対し、支援団体・NPOの活動費に充てられる「支援金」は、より早く柔軟に現場で使われる性質があります。どちらも大切な支援ですが、税務上の控除・損金算入の可否は寄附先が特定寄附金・指定寄附金等に該当するかで決まるため、控除を前提とする場合は寄附先の区分を必ず確認してください。控除の有無で寄附先を選ぶ必要はありませんが、正しく把握しておくことが大切です。

5. まとめ——善意を「正しく」形にするために

災害時の寄附・支援には、個人なら寄附金控除(所得税・住民税、地方公共団体ならふるさと納税扱い)、法人なら全額損金算入(国等・指定寄附金の場合)といった税制上の後押しがあります。取引先への災害見舞金や自社製品の物資寄附も、それぞれ損金算入が認められています。

ただし、いずれも「どこに」「どの口座に」「どう記録して」支援したかで取扱いが変わり、控除・損金算入には領収書等の保管や確定申告が欠かせません。せっかくの善意を確実に形にするために、支援の前後で税務の要件を押さえておくことをおすすめします。

当事務所では、法人・個人事業主の皆さまの寄附・支援に関する税務処理のご相談を承っています。「この寄附は全額損金になるか」「取引先への見舞金はどう処理すべきか」「自社製品の提供の会計処理は」など、具体的なご質問があればお気軽にお問い合わせください。

寄附・災害支援の税務、お気軽にご相談ください

寄附金の損金算入、災害見舞金・物資寄附の処理、個人の寄附金控除まで。大阪・北区(梅田・北新地すぐ)の当事務所が、御社・皆さまの善意を正しく税務に反映するお手伝いをします。

※本記事は2026年7月30日時点の情報および過去の災害(東日本大震災・平成28年熊本地震等)に係る国税庁の取扱いを参考に、一般的な情報提供を目的として作成したものです。今回の令和8年熊本地震について、募金団体に対する義援金が「国等に対する寄附金(特定寄附金)」として取り扱われるためには、税務署による確認等の手続きを要する場合があり、寄附先ごとに取扱いが異なります。実際の申告・処理にあたっては、寄附先の区分・受領証を確認のうえ、必ず国税庁ホームページの最新情報をご確認いただくか、税務署・当事務所にご相談ください。

この記事を書いた人

吉岡 博和

ペネトレイト会計事務所 代表税理士