【創業税理士が解説】 役員報酬の決め方完全ガイド!~創業期の社長が知るべき「手取りを最大化」する役員報酬シミュレーション~

「役員報酬っていくらにすればいいの?」

会社を設立したばかりの経営者の方から、このご質問を本当によくいただきます。

役員報酬の設定は、単に「生活費がいくら必要か」だけでは決められません。役員報酬の額によって、法人税・所得税・住民税・社会保険料のすべてが変わります。つまり、役員報酬の決め方を間違えると、年間数十万円の損をする可能性があるのです。

この記事では、創業期の経営者の方向けに、具体的な数字を使ったシミュレーションで「手取りを最大化する役員報酬の決め方」をわかりやすく解説します。

そもそも役員報酬とは?従業員の給与との違い

役員報酬は、会社の役員(代表取締役等)に対して支払われる報酬です。従業員の給与とは異なり、税務上の取り扱いに特別なルールがあります。

役員報酬を経費(損金)にするための3つのルール

①定期同額給与

毎月同じ額を支払う形式です。初めて会社を作る方は、ほとんどの場合これに該当します。事業年度の開始から3ヶ月以内に決定し、その後は原則として翌事業年度まで変更できません

②事前確定届出給与

いわゆる「役員ボーナス」です。事前に税務署へ届出が必要で、届出どおりに支払わないと損金になりません。

③業績連動給与

利益に連動する報酬ですが、中小企業ではほとんど使われません

創業期の社長がまず押さえるべきは「定期同額給与」です。一度決めたら原則1年間変更できないことを必ず理解しておきましょう。

役員報酬に関わる税金・社会保険の仕組み

役員報酬の額を決める前に、「何がいくらかかるのか」の全体像を把握しましょう。

①法人側にかかる税金

法人税・法人住民税・法人事業税の実効税率はおおよそ以下のとおりです。

課税所得実効税率(概算)
800万円以下の部分約 23%
800万円超の部分約 34%

役員報酬を増やす → 法人の利益が減る → 法人税が減る、という関係です。

②個人側にかかる税金

役員報酬を受け取った個人には、所得税・住民税がかかります。所得税は累進課税(5%~45%)で、報酬が多いほど税率が上がります。

ただし、役員報酬には「給与所得控除」が適用されます。これは給与収入から一定額を差し引ける制度で、個人事業主にはない法人化の大きなメリットのひとつです。

③社会保険料(見落とし注意!)

創業期の経営者が最も見落としがちなのが社会保険料です。

健康保険料・厚生年金保険料は、役員報酬の約30%がかかります(会社負担と個人負担の合計)。

役員報酬を上げると法人税は減りますが社会保険料は大幅に増えます
このバランスが、役員報酬の最適額を考える上での最大のポイントです。

役員報酬を上げすぎると法人税は減るが社会保険料が急増し、トータルで損をすることがあります。

【シミュレーション】役員報酬の額で手取りはこんなに変わる

実際に、創業期の会社を想定したシミュレーションを見てみましょう。

前提条件

  • 大阪市内で設立した株式会社 / 資本金100万円 / 役員1名(社長のみ)
  • 年間利益は役員報酬支払前の金額
  • 社会保険料は協会けんぽ・厚生年金の概算
  • 令和8年度税制改正を反映(基礎控除の引き上げ等)

【パターンA】年間利益 300万円の場合

項目役員報酬
120万円
役員報酬
180万円
役員報酬
240万円
役員報酬
300万円
法人税等約 27万円約 18万円約 9万円約 7万円
所得税・住民税約 0万円約 2万円約 8万円約 12万円
社会保険料(会社+個人)約 35万円約 52万円約 70万円約 87万円
合計負担額約 62万円約 72万円約 87万円約 106万円
手取り合計(個人+法人)約 238万円約 228万円約 213万円約 194万円

→ 年間利益300万円の場合、役員報酬は月額10万円(年120万円)前後が手取り合計では最も効率的です。ただし月額10万円では生活が厳しいため、生活費との兼ね合いで月額15〜20万円程度に設定するケースが多いです。

利益が少ない創業初期こそ、報酬を取りすぎて会社を赤字にしないことが重要です。赤字決算は融資審査に大きく影響します。

【パターンB】年間利益 600万円の場合

項目役員報酬
240万円
役員報酬
360万円
役員報酬
480万円
役員報酬
540万円
法人税等約 54万円約 36万円約 18万円約 9万円
所得税・住民税約 8万円約 15万円約 27万円約 35万円
社会保険料(会社+個人)約 70万円約 105万円約 140万円約 155万円
合計負担額約 132万円約 156万円約 185万円約 199万円
手取り合計(個人+法人)約 468万円約 444万円約 415万円約 401万円

→ 年間利益600万円の場合、役員報酬は月額20万円(年240万円)前後に抑えたほうが、手取り合計は最大になります。報酬を上げすぎると社会保険料の負担が重くなります。

ただし、手取りが最大になる額と「生活できる額」は別です。住宅ローンや家族の生活費も考慮して決定しましょう。

【パターンC】年間利益 1,000万円の場合

項目役員報酬
360万円
役員報酬
600万円
役員報酬
720万円
役員報酬
900万円
法人税等約 96万円約 60万円約 42万円約 15万円
所得税・住民税約 15万円約 33万円約 47万円約 74万円
社会保険料(会社+個人)約 105万円約 175万円約 210万円約 260万円
合計負担額約 216万円約 268万円約 299万円約 349万円
手取り合計(個人+法人)約 784万円約 732万円約 701万円約 651万円

→ 年間利益1,000万円の場合も、役員報酬を抑えたほうが手取り合計は大きくなります。報酬月額30万円(年360万円)前後が最も効率が良いラインです。

創業期の役員報酬、5つの決定ポイント

「手取り最大化」だけでは決められない

シミュレーション上の最適解と、実際の生活に必要な金額は異なります。住宅ローンの返済や家族の生活費も考慮して決定しましょう。

年間の事業計画を先に立てる

役員報酬は原則1年間変更できません。まず年間の売上・経費・利益の見通しを立てた上で、役員報酬を決定します。見通しなしに高額な報酬を設定すると、資金繰りが悪化します。

資金調達への影響を考える

金融機関からの融資を検討している場合、役員報酬が高すぎて会社に利益が残らない決算書は、融資審査でマイナスに働きます。

逆に、適正な利益が残る決算書は、融資の評価を高めます。
当事務所は資金調達のサポートに強みがあります。融資を見据えた役員報酬の設定についてもお気軽にご相談ください。

配偶者を役員にすることのメリット

配偶者に役員報酬を支払うことで、所得を分散し、世帯全体の税負担を減らせる可能性があります。

ただし、配偶者に「役員報酬に見合う業務実態」が必要です。実態がないと税務調査で否認されるリスクがあります。

決定した後の手続き

役員報酬を決定したら株主総会(または社員総会)の議事録を作成し、保管しておく必要があります。税務調査の際に確認されることがありますので、必ず議事録を残しましょう。

よくある失敗例

失敗例① 「生活費が月額40万円必要だから」と高めに設定

利益が少ないのに役員報酬を高く設定すると、会社に赤字が残り、融資審査で不利になるだけでなく、社会保険料も重くなります。

失敗例② 「節税のために」と期中で増額

事業年度の途中で「利益が出そうだから」と増額しても、定期同額給与のルールに反し、増額分が損金不算入となる可能性があります。

失敗例③ 社会保険料を考慮せずに決定

法人税と所得税だけでシミュレーションし、社会保険料を考慮しないと、実際の手取りが想定より大幅に少なくなります。

まとめ

役員報酬の決定は「なんとなく」で決めるものではありません。税金・社会保険料・資金繰り・融資への影響まで含めてシミュレーションした上で決定することが、創業期の経営を安定させる第一歩です。

この記事のポイント

  • 役員報酬は一度決めたら原則1年間変更できない
  • 「手取り最大化」のカギは社会保険料
  • 融資を見据えた決算書づくりも重要
  • 事業計画を先に立ててから報酬額を決定する

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※本記事のシミュレーションは、一定の前提条件に基づく概算であり、実際の税額とは異なる場合があります。
※令和8年度税制改正を反映していますが、今後の改正により内容が変更となる場合があります。

この記事を書いた人

吉岡 博和

ペネトレイト会計事務所 代表税理士