【株式会社×子会社の合同会社】親会社への役員報酬は損金になる?税務上の落とし穴を税理士が解説

「株式会社の子会社として合同会社を設立し、子会社から親会社に役員報酬を支払う」――株式会社ではあり得ないこのスキーム、実は合同会社なら可能です。持株会社体制やSPC、事業部門の分社化などで活用されるケースが増えていますが、税務上の取扱いを誤ると役員給与の全額損金不算入という大きなダメージにつながります。

本記事では、親会社(株式会社)が子会社(合同会社)の業務執行社員となり役員報酬を受け取る場合について、会社法の仕組みから法人税・消費税・源泉徴収の取扱い、実務上の注意点までを解説します。

1. なぜ「法人」に役員報酬を支払えるのか

株式会社では、取締役になれるのは自然人(個人)だけです(会社法331条1項1号)。法人が取締役に就任することはできません。

一方、合同会社には「取締役」という機関はなく、出資者である「社員」が業務執行を担います。そして合同会社の社員には、個人だけでなく法人もなることができます。つまり、親会社である株式会社が合同会社の業務執行社員(代表社員)に就任し、その業務執行の対価として報酬を受け取る――これが「法人への役員報酬」の正体です。

項目株式会社合同会社
経営を担う機関取締役業務執行社員・代表社員
法人の就任可否不可(自然人のみ)可能
法人が就任する場合の手続―職務執行者(自然人)の選任が必要

職務執行者の選任が必須

法人が業務執行社員となる場合でも、実際に業務を行うのは生身の人間です。そこで会社法は、法人である業務執行社員に対して、職務を行うべき者(職務執行者)を選任し、その氏名・住所を他の社員に通知することを義務付けています(会社法598条1項)。一般的には親会社の役員や従業員が選任されます。

また、法人が代表社員となる場合には、職務執行者の氏名・住所が登記事項になります(会社法914条8号)。

2. 子会社(合同会社)側の法人税の取扱い

法人である業務執行社員も「役員」に該当

合同会社の業務執行社員は、個人・法人を問わず、法人税法上の「役員」に該当します(法人税法2条15号、法人税法施行令7条1号)。したがって、親会社に支払う業務執行の対価は「役員給与」として、法人税法34条の損金算入制限の適用を受けます。

すなわち、次のいずれかに該当しなければ、支払った報酬は損金不算入となります。

①定期同額給与:毎月同時期に同額を支給(届出不要)

②事前確定届出給与:支給日・支給額を事前に税務署へ届出

③業績連動給与:非上場の合同会社では利用は事実上困難

実務上は定期同額給与として毎月定額を支払う設計が基本です。金額の決定・改定は、原則として事業年度開始から3か月以内に、定款の定めまたは総社員の同意により行い、必ず同意書等の書面を残しておきましょう。

使用人兼務役員にはなれない

合同会社の業務執行社員は使用人兼務役員になることができません(法人税法34条6項、法人税法施行令71条1項3号)。したがって、支払う業務執行報酬は「一部は使用人分給与」といった切り分けができず、全額が役員給与として取り扱われます。

不相当に高額な部分は損金不算入

形式要件を満たしていても、職務の内容や同業類似法人の支給状況等に照らして不相当に高額な部分は損金不算入となります(法人税法34条2項)。100%親子間の取引は金額を恣意的に決めやすいだけに、税務調査でも注目されやすいポイントです。親会社(職務執行者)が実際に担う業務内容を整理し、金額の算定根拠を文書化しておくことが重要です。

【実務メモ】100%グループ内では「経営指導料」「業務委託料」名目の支払いが寄附金認定されるリスクがしばしば問題になります。業務執行社員への役員報酬は、会社法上の機関としての業務執行の対価という法的根拠が明確である点がメリットです。ただしその代わりに、定期同額給与等の形式要件を厳格に満たす必要があります。

3. 親会社(株式会社)側の取扱い

受け取った報酬は益金算入

親会社が受け取る業務執行報酬は、法人税法上の益金に算入されます。受取配当金のような益金不算入の取扱いはありません。「子会社では損金・親会社では益金」となり、グループ内で所得が移転するイメージです。

源泉徴収は不要

役員報酬という名称ですが、支払先は法人です。給与所得としての源泉徴収の対象は個人への支払いであり、内国法人への業務執行報酬の支払いに源泉徴収は不要です。

【実務メモ】職務執行者である個人に対しては、通常、親会社が自社の役員・従業員として給与を支払います。この給与については親会社側で通常どおり源泉徴収・社会保険加入の対象となります。なお、法人社員そのものは自然人ではないため、社会保険の被保険者にはなりません。

4. 消費税の取扱い ― 個人役員とはここが違う

個人役員への役員報酬は、雇用契約等に基づく労務の対価として消費税の課税対象外(不課税)です。しかし、法人社員への業務執行報酬は雇用契約に基づくものではなく、法人が行う役務提供の対価と考えられるため、消費税の課税取引に該当し、子会社側では課税仕入れ、親会社側では課税売上げとして取り扱うのが実務上の整理です。

この場合、子会社が仕入税額控除の適用を受けるには、インボイス制度のもとで親会社(適格請求書発行事業者)からの適格請求書等の交付・保存が必要になる点に注意してください。

【実務メモ】法人社員への業務執行報酬の消費税上の取扱いについて明文の規定はなく、「役員給与」という性格を重視する見解もあり得ます。金額が大きい場合や子会社が簡易課税・2割特例を適用している場合など、影響が大きいケースでは事前に取扱いを整理しておくことをおすすめします。

5. 役員報酬と配当、どちらで還流させるか

子会社から親会社に資金を還流させる方法としては、役員報酬のほかに配当(利益の分配)があります。両者の税務上の違いを整理すると次のとおりです。

項目役員報酬(業務執行報酬)配当(利益の分配)
子会社側(支払時)要件を満たせば損金算入損金不算入
親会社側(受取時)益金算入子法人株式等の配当として全額もしくは一部益金不算入
消費税課税取引とする整理が有力不課税
性格業務執行という役務提供の対価出資に対する果実

ポイントは、役員報酬は子会社の所得を親会社に付け替える効果を持つことです。たとえば親会社に繰越欠損金がある、あるいは親会社側で管理部門コストが集中的に発生しているようなケースでは、役員報酬による還流に合理性が生まれます。逆に、単純に利益を吸い上げるだけなら配当(全額益金不算入)の方がシンプルです。実際の業務執行の実態と対価のバランスを踏まえて設計しましょう。

6. 実務チェックリスト

①定款・登記で親会社を業務執行社員(代表社員)として位置付けているか

②職務執行者を選任し、通知・登記(代表社員の場合)を済ませているか

③報酬額を事業年度開始3か月以内に決定し、総社員の同意書等を残しているか

④定期同額給与(または事前確定届出給与)の要件を満たす支給設計になっているか

⑤報酬額の算定根拠(職務内容・業務量)を文書化し、過大報酬と指摘されない水準か

⑥消費税の取扱い(課税売上げ・課税仕入れ)とインボイスの交付・保存体制を整理したか

⑦配当による還流と比較し、グループ全体での税負担を検討したか

まとめ

合同会社の「法人も業務執行社員になれる」という特徴を使えば、子会社から親会社に役員報酬を支払うことが可能です。ただし、その支払いは法人税法34条の役員給与規制をフルに受けるため、定期同額給与を軸とした支給設計・書面化・金額の相当性の確保が欠かせません。加えて、個人役員とは異なり消費税・インボイスの論点が生じる点も見落としがちなポイントです。

グループ内の資金還流は、役員報酬・配当・業務委託料など複数の選択肢を組み合わせて、グループ全体の税負担と税務リスクのバランスを取ることが重要です。

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※本記事は2026年7月時点の法令等に基づいて作成しています。個別の取引への適用にあたっては、必ず専門家にご確認ください。

この記事を書いた人

吉岡 博和

ペネトレイト会計事務所 代表税理士