「機械を入れ替えたい」「工場を建てたい」「システムを刷新したい」——設備投資を検討するとき、必ず押さえておきたいのが設備投資に係る優遇税制です。取得価額の全額をその年の経費にできる即時償却や、法人税額から直接差し引ける税額控除が使えれば、同じ投資でも手元に残る資金は大きく変わります。
ただし、中小企業向けの優遇税制は複数あり、どれを選ぶかで手続きの手間も効果も変わるうえ、併用できない組み合わせもあります。令和8年度税制改正では「大胆な設備投資促進税制」が新たに創設され、選択肢がさらに増えました。本記事では、中小企業が使える主な4つの制度を横断的に整理し、どの場面でどれを選ぶべきかを税理士の視点で解説します。
📌 この記事のポイント
- 中小企業が使える主な設備投資優遇税制は、①中小企業経営強化税制 ②中小企業投資促進税制 ③大胆な設備投資促進税制 ④少額減価償却資産の特例の4つ
- 即時償却ができるのは①と③。②は30%の特別償却にとどまります
- ①と③は併用できません。③の投資計画期間内の事業年度は、①(繰越税額控除を除く)の適用を受けられない点に注意が必要です
- 建物に即時償却を適用したいなら③。①はE類型のみ建物が対象ですが、建物・附属設備への即時償却はできません
- ③は投資額5億円以上・投資利益率15%以上とハードルが高い一方、原則すべての業種が対象。①は指定事業に限定されます
1. まず全体像——中小企業が使える4つの制度
設備投資の優遇税制は、「どれくらいの規模の、どんな設備に投資するのか」によって使うべき制度が変わります。まずは4つの制度の位置づけを俯瞰しておきましょう。
| 制度 | 優遇の内容 | 主な対象設備 | 事前手続き |
|---|---|---|---|
| ① 中小企業経営強化税制 | 即時償却又は 税額控除10% (資本金3,000万円超は7%) | 機械装置・工具・器具備品・建物附属設備・ソフトウェア (E類型のみ建物も対象) | 必要 (経営力向上計画の認定) |
| ② 中小企業投資促進税制 | 30%特別償却又は 税額控除7% (資本金3,000万円以下等) | 機械装置(160万円以上)・測定/検査工具・ソフトウェア・貨物自動車等 | 不要 |
| ③ 大胆な設備投資促進税制 (令和8年度創設) | 即時償却又は 税額控除7% (建物等は4%) | 機械装置・建物・構築物・ソフトウェア等 | 必要 (投資計画の確認) |
| ④ 少額減価償却資産の特例 | 取得価額の全額を損金算入 (年間合計300万円まで) | 取得価額30万円未満 (令和8年度改正で40万円未満へ)の資産全般 | 不要 (明細書の添付は必要) |
出典:
中小企業庁「中小企業投資促進税制」https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/tyuusyoukigyoutousisokusinzeisei.html/中小企業庁「中小企業経営強化税制」https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/kyoka_zeisei.html
✅ ポイント:「即時償却」と「税額控除」はどちらが得か
即時償却は取得価額の全額をその年の損金にできる制度ですが、翌年以降の減価償却費が減るため、効果の本質は「課税の繰延べ」です。一方の税額控除は法人税額そのものを減らすため、減税額はそのまま残ります。「今期の資金繰りを最優先するなら即時償却」「トータルの納税額を抑えたいなら税額控除」が基本的な考え方ですが、当期の利益水準や今後の業績見通しによって有利不利は変わります。試算のうえで選択することをおすすめします。
2. 中小企業経営強化税制——即時償却の本命
中小企業の設備投資優遇税制の中心にあるのが中小企業経営強化税制です。中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づいて設備を取得し、指定事業の用に供した場合に、即時償却または取得価額の10%(資本金3,000万円超の法人は7%)の税額控除を選択適用できます(措法42条の12の4①②)。
4つの類型
| 累計 | 内容 | 確認者・手続き |
|---|---|---|
| A類型 生産性向上設備 | 一定期間内に販売され、生産性が旧モデル比で年平均1%以上向上する設備 | 工業会等の証明書 |
| B類型 収益力強化設備 | 年平均の投資利益率が7%以上となることが見込まれる投資計画に係る設備 | 経済産業局の確認書 |
| D類型 経営資源集約化設備 | M&A等を行った際に、修正ROA・有形固定資産回転率が一定以上向上する設備 | 経済産業局の確認書 |
| E類型 経営規模拡大設備等 | 売上高100億円超を目指す中小企業向け。建物も対象 | 経済産業局の確認書 |
E類型は建物が対象。ただし建物に即時償却はできない
E類型のみ建物が対象設備となっていますが、建物及びその附属設備に即時償却を適用することはできません。建物について即時償却を受けたい場合は、後述する大胆な設備投資促進税制の検討が必要になります。ここは実務で非常に間違えやすいポイントです。
💡 実務メモ:C類型は廃止、E類型が新設された
かつて存在したC類型(デジタル化設備)は令和7年4月1日をもって廃止され、代わりに売上高100億円超を目指す中小企業向けのE類型が新設されました。古い情報を参照していると存在しない類型で計画を立ててしまうおそれがあるため、必ず最新の中小企業庁の手引きをご確認ください。適用期限は令和9年(2027年)3月31日までです。
出典:
国税庁「No.5434 中小企業経営強化税制」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5434.htm
中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き(令和8年度税制改正対応版)」https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/pdf/tebiki_zeiseikinyu.pdf
⚠️ 「事業供用前」に計画認定を受けるのが原則
経営力向上計画は、原則として設備を取得する前に認定を受ける必要があります(設備取得後に申請する場合も、取得日から60日以内に申請を受理される必要があるなどの制約があります)。「決算間際に節税策として思い出した」では間に合わないことが多い制度です。設備投資の検討段階で、早めに専門家へご相談ください。
3. 中小企業投資促進税制——手続き不要の使いやすさ
計画認定の手続きが負担になる場合に有力な選択肢となるのが中小企業投資促進税制です。対象設備を取得・事業供用すれば、取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除が選択適用できます。
最大の特徴は、経営力向上計画の認定手続きが不要である点です。手続きが比較的シンプルで短期間に活用できるため、実務上の使い勝手に優れています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 中小企業者等(資本金1億円以下の法人等)、従業員数1,000人以下の個人事業主 ※税額控除は個人事業主・資本金3,000万円以下の法人が対象(3,000万円超は30%特別償却のみ) |
| 対象設備 | 機械及び装置【1台160万円以上】 測定工具及び検査工具【1台120万円以上、又は1台40万円以上かつ複数合計120万円以上】 一定のソフトウェア【70万円以上】 貨物自動車(車両総重量3.5トン以上)/内航船舶 |
| 対象外 | 中古品、貸付けの用に供する設備、匿名組合契約等の目的である事業用設備、一定のコインランドリー業用機械装置 |
| 適用期限 | 2027年3月31日まで |
出典:
中小企業庁「中小企業投資促進税制」https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/tyuusyoukigyoutousisokusinzeisei.html
💡 実務メモ:パソコンは対象外。乗用車も原則対象外
電子計算機(パソコン)・デジタル複合機・試験又は測定機器といった器具備品は、平成29年度税制改正で本制度の対象外となりました。これらへの投資は中小企業経営強化税制の活用を検討することになります。また、車両は車両総重量3.5トン以上の貨物自動車が対象で、一般的な乗用車は対象外です。「営業車を買ったが使えなかった」という誤解が起きやすい論点です。
4. 大胆な設備投資促進税制——令和8年度創設の新制度
令和8年度税制改正で創設されたのが大胆な設備投資促進税制(正式名称:特定生産性向上設備等投資促進税制)です。改正産業競争力強化法上の確認を受けた投資計画に基づき、一定規模以上の特定生産性向上設備等を取得・事業供用した場合に、即時償却又は一定の税額控除を適用できます(措法42条の12の7①②)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 投資額の要件 | 中小企業者等は5億円以上(それ以外の法人は35億円以上) |
| 投資利益率 | 年平均15%以上が見込まれること |
| 対象設備 | 機械装置、建物、構築物、ソフトウェア等 |
| 優遇内容 | 即時償却 又は 税額控除(原則7%、建物等は4%) ※税額控除は法人税額の20%が上限 |
| 対象業種 | 原則、全業種 |
| 手続き | 設備取得前に投資計画について経済産業大臣の確認が必要 |
✅ ポイント:ハードルは高いが「建物」と「全業種」が魅力
投資額5億円以上・投資利益率15%以上という要件は、中小企業経営強化税制と比較してハードルが高い設定です。しかし、建物についても即時償却を適用できる点、そして原則すべての業種が対象である点は、この制度ならではの大きな利点です。工場の新設や事業所の全面刷新といった大型投資を計画している場合、中小企業経営強化税制では建物が即時償却の対象にならないため、この制度の検討価値が高くなります。
5. 最重要——①と③は併用できない
複数の制度を知ったうえで、実務上もっとも注意すべきなのが併用制限です。
⚠️ 中小企業経営強化税制と大胆な設備投資促進税制は併用不可
中小企業経営強化税制(繰越税額控除制度を除く)は、いずれの類型であっても、大胆な設備投資促進税制に係る投資計画期間内の日が属する各事業年度で適用を受けることができません(措法42条の12の4①等)。「大型投資は③で、小口の設備は①で」と併用するつもりでいると、想定していた節税効果が得られない事態になりかねません。投資計画期間全体を見渡して、どちらの制度に寄せるかを設計段階で決めておく必要があります。
この併用制限は、単年度ではなく投資計画の期間内の各事業年度に及ぶ点が重要です。大胆な設備投資促進税制の投資計画は複数年にわたることが想定されるため、その期間中は中小企業経営強化税制が使えなくなります。制度選択は、その年の設備だけでなく、数年先までの投資予定を踏まえて判断すべき論点です。
💡 実務メモ:②にも併用制限がある
中小企業投資促進税制についても、中小企業経営強化税制のE類型の適用を受ける場合、E類型の投資計画の期間中は本措置の適用を受けることができません。制度間の関係は複雑に絡み合っているため、「この設備にはこれ」と個別に判断するのではなく、投資計画全体での整合性を確認することが欠かせません。
出典:
中小企業庁「中小企業投資促進税制」(E類型との併用制限)https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/tyuusyoukigyoutousisokusinzeisei.html
6. 少額な設備は「少額減価償却資産の特例」で
大型投資だけでなく、パソコンや什器といった少額な資産にも有効な制度があります。中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例です。
青色申告を行う中小企業者等が、取得価額30万円未満の減価償却資産を取得して事業の用に供した場合、その取得価額の全額を損金算入できます。1事業年度あたりの合計額は300万円が上限です。対象はパソコンや机などの有形固定資産に加え、ソフトウェアや特許権などの無形固定資産、中古資産も含まれます。
✅ 令和8年度改正で「40万円未満」へ拡大
令和8年度税制改正により、この特例の対象となる取得価額が30万円未満から40万円未満へ引き上げられ、適用期限も延長される方針が示されています。一方で、対象法人の従業員数要件は500人以下から400人以下へ厳格化される見込みです。ハイスペックなPCや専門ソフトを一括経費化できる範囲が広がる一方、年間合計300万円の上限は据え置かれる見込みのため、1件あたりの金額が大きくなる分、年間で使い切れる件数は相対的に少なくなります。どの資産に特例を適用するか、計画的な検討がより重要になります。
💡 実務メモ:別表16(7)の添付を忘れずに
本特例の適用には、確定申告書に別表16(7)「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書」を添付する必要があります。要件を満たしていても添付が漏れると適用を受けられません。決算時のチェック項目として明確にしておくことをおすすめします。なお、全額を損金算入した場合であっても、その資産は償却資産税(固定資産税)の課税対象となる点にもご留意ください。
7. どの制度を選ぶか——判断の順序
制度が複数あると迷いますが、実務上は次の順序で絞り込むと整理しやすくなります。
①まず投資規模を確認する
投資額が5億円以上、かつ投資利益率15%以上が見込めるなら、大胆な設備投資促進税制が候補になります。建物を含む大型投資であれば特に有力です。ただし①との併用制限があるため、投資計画期間全体を見渡した判断が必要です。
②建物への即時償却が必要かを判断する
建物について即時償却を受けたいなら、選択肢は大胆な設備投資促進税制のみです。中小企業経営強化税制はE類型で建物が対象になりますが、即時償却は適用できません。
③業種が指定事業に該当するかを確認する
中小企業経営強化税制は指定事業に限定されます。指定事業に該当しない業種の場合、原則全業種が対象の大胆な設備投資促進税制が選択肢になります。
④計画認定の手間と時期を考える
①③はいずれも事前の計画認定・確認が必要で、時間がかかります。手続きの余裕がない、あるいは対象設備が機械装置等に限られるなら、認定不要の中小企業投資促進税制が現実的です。
⑤少額な資産は特例で処理する
1件あたり30万円未満(改正後は40万円未満)の資産は、少額減価償却資産の特例で年間300万円まで一括経費化するのが基本です。
⚠️ 「補助金との併用」にも要注意
設備取得の際に国や地方公共団体から補助金を受けた場合でも、中小企業投資促進税制は原則として対象になります。ただし、補助事業の側で税制との併用を制限している場合があります。補助金を活用した設備投資では、必ず該当する補助事業の公募要領等をご確認ください。また、補助金には圧縮記帳の論点もあり、税務処理は複雑になります。
8. まとめ
📌 本記事のまとめ
- 中小企業が使える主な設備投資優遇税制は4つ。即時償却ができるのは中小企業経営強化税制と大胆な設備投資促進税制です
- この2つは併用できません。大胆な設備投資促進税制の投資計画期間内の各事業年度は、中小企業経営強化税制(繰越税額控除を除く)が使えなくなります
- 建物への即時償却を受けたいなら、大胆な設備投資促進税制が唯一の選択肢です
- 大胆な設備投資促進税制は投資額5億円以上・投資利益率15%以上とハードルが高い反面、原則全業種が対象です
- 計画認定の手間を避けたい場合は中小企業投資促進税制、少額資産は少額減価償却資産の特例が基本線となります
設備投資の優遇税制は、制度ごとに要件・手続き・優遇内容が異なり、さらに併用制限まで絡みます。「どの制度を使うか」は、設備を買ってから考えるのでは遅く、投資を決断する段階で設計しておくべき論点です。特に計画認定を要する制度は、取得前の手続きが原則であり、タイミングを逃すと使えなくなります。
当事務所は、中小企業等経営強化法に基づく認定経営革新等支援機関として、経営力向上計画の策定支援から、設備投資に係る税制の適用判断、即時償却と税額控除の有利判定、資金調達との組み合わせまで一貫してサポートしています。「この設備投資でどの制度が使えるか」「即時償却と税額控除のどちらが有利か」といったご相談は、投資の検討段階でお気軽にお寄せください。
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※本記事は2026年8月時点の情報に基づき、一般的な情報提供を目的として作成したものです。大胆な設備投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)および少額減価償却資産の特例の改正内容については、令和8年度税制改正に係る公表資料等に基づいて記載しており、細目については今後の政省令・通達等により明確化される部分があります。実際の適用にあたっては、必ず国税庁・中小企業庁・経済産業省の最新の公表資料をご確認いただくか、当事務所にご相談ください。

