「カード売上の入金日なのに、お金が振り込まれていない。決済会社に電話してもつながらない。今月の家賃と給料、どうすれば……」
2026年7月6日、クレジットカード決済代行会社の株式会社全東信(大阪市)について、大阪地方裁判所が破産手続開始を決定しました。負債総額は約1,151億円(帝国データバンク調べ・7月8日時点)にのぼり、決済関連の倒産としては極めて大規模なものです。
全東信は「カード売上を週2回・月6回のペースで早期入金する」というサービスを強みに、飲食店を中心に約20万店の加盟店を抱えていたとされます。破産により、加盟店に支払われるはずだった決済代金の入金が止まるという深刻な影響が広がっています。
これを受けて経済産業省は7月10日、影響を受ける中小企業・小規模事業者向けの資金繰り支援策を発表しました。この記事では、「何が起きたのか」「自社は関係あるのか」「使える支援策は何か」を整理します。
この記事のポイント
- 全東信の破産により、同社経由のカード売上の未入金分は原則としてすぐには回収できません(破産手続の中での扱いになります)
- 政府は全国378か所に特別相談窓口を設置。日本政策金融公庫のセーフティネット貸付は要件が緩和され、影響を受けた事業者が使いやすくなっています
- セーフティネット保証1号(別枠・100%保証)の適用に向けた手続きも進行中です
- 手元資金が細る前に、まず相談窓口へ。支援策は「困り切ってから」より「早めに動く」ほうが選択肢が多く残ります
何が起きたのか — 決済代行の仕組みとリスク
お客様がクレジットカードで支払った代金は、カード会社から直接お店に入金されるとは限りません。多くの中小店舗は「決済代行会社」を間に挟んでおり、お金はカード会社 → 決済代行会社 → お店という順に流れます。
この仕組みでは、決済代行会社が破産すると、カード会社からお店に渡るはずのお金が、途中で止まってしまうことになります。お客様はきちんと支払いを済ませているのに、お店にはお金が届かない——今回起きているのは、まさにこの事態です。
しかも、止まったお金は「破産債権」として破産手続の中で扱われるため、全額がすぐに戻ってくることは期待しにくいのが実情です。売上はあるのに現金が入らない、いわゆる黒字倒産のリスクが現実味を帯びる局面であり、だからこそ政府も迅速に支援策を打ち出しました。
政府の支援策① 特別相談窓口(全国378か所)
経済産業省の発表を受け、日本政策金融公庫・沖縄振興開発金融公庫・商工組合中央金庫・信用保証協会など、全国378か所に特別相談窓口が設置されました。
全東信の破産手続開始に伴う特別相談窓口一覧
経済産業省HPより
「自社がどの支援を使えるのか分からない」という段階でも構いません。全東信との取引があり資金繰りに不安がある方は、まず最寄りの窓口か、公庫の事業資金相談ダイヤルに連絡してみてください。
相談をスムーズに進めるために、次のものを手元に揃えておくと話が早く進みます。
- 全東信との契約書・加盟店規約(取引の証明になるもの)
- 入金明細・売上データ(未入金額が分かるもの)
- 直近2期分の決算書・確定申告書
- 今後数か月の資金繰りの見通し(ざっくりしたメモでも可)
政府の支援策② 公庫のセーフティネット貸付(要件緩和)
日本政策金融公庫は、今回の破産で影響を受けた事業者向けに「経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)」の特別対応を開始しました。
| 項目 | 国民生活事業(小規模事業者向け) | 中小企業事業 |
|---|---|---|
| 融資限度額 | 7,200万円 | 7億2,000万円 |
| 設備資金の返済期間 | 20年以内(据置3年以内) | 20年以内(据置3年以内) |
この制度は本来「売上が5%以上減少している」ことなどが利用の目安ですが、今回は全東信の破産による影響があれば、数値要件を満たしていなくても利用できるよう運用が緩和されています。「決済代金の未入金で一時的に資金が詰まっているだけで、売上自体は落ちていない」という事業者でも相談できるのがポイントです。
なお、農林漁業者向けにも「農林漁業セーフティネット資金」による同様の対応が用意されています。
政府の支援策③ セーフティネット保証1号(手続き進行中)
全東信に売掛金債権等を持っていることで資金繰りに支障が生じている中小企業・小規模事業者を対象に、セーフティネット保証1号の適用に向けた手続きが進められています。
これは、信用保証協会が通常の保証枠とは別枠で、金融機関からの借入を100%保証する制度です。適用されれば、民間金融機関からの資金調達もぐっとしやすくなります。本記事の執筆時点では「適用に向けた手続き中」の段階のため、最新の指定状況は中小企業庁のホームページや信用保証協会でご確認ください。
政府の支援策④ いま返済中の借入への対応
政府は政府系金融機関と信用保証協会に対して、返済猶予などの既往債務の条件変更、貸出手続の迅速化、担保徴求の弾力化に対応するよう要請しています。
「新しく借りる」だけでなく、「いまの返済を一時的に軽くする」という選択肢もあるということです。毎月の返済負担が重い場合は、借入先の金融機関に早めに相談しましょう。このほか、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)の加入者は、取引先の倒産時に共済金の借入れができる制度本来の出番でもあります。加入状況を確認してください。
実務対策:影響を受けた事業者がやるべき4つのこと
1. 全東信との取引の有無と未入金額を確定する
決済代行の契約書・入金明細を確認し、「いくら入金が止まっているのか」を正確に把握しましょう。すべての対応はここから始まります。
2. 破産手続の通知を待ち、債権届出の準備をする
未入金分は破産債権として届け出ることになります。破産管財人からの案内や公告を見落とさないようにし、手続きの詳細は弁護士等の専門家にも確認を。
3. 3か月先までの資金繰り表を作る
未入金額を除いた前提で、家賃・給料・仕入・返済がいつ・いくら出ていくかを見える化します。資金の谷が見えたら、その規模に応じて支援策②③の利用を検討します。融資の申込では「いくら必要か」を裏付けをもって説明できるかどうかで審査のスピードが変わります。資金繰り表はその裏付けそのものであり、作成は顧問税理士に依頼できる作業です。
4. 決済手段の複線化を検討する
今回の教訓は「決済代行会社への一極集中リスク」です。復旧を急ぐと同時に、複数の決済手段の併用や、入金サイクルと手数料のバランスの見直しも中期的な課題として押さえておきましょう。
まとめ
- 全東信の破産で、約20万店の加盟店に決済代金の未入金リスクが生じています
- 政府は特別相談窓口・セーフティネット貸付の要件緩和・セーフティネット保証1号(手続き中)・既往債務の条件変更要請と、複数の支援策を用意しています
- 未入金の回収には時間がかかります。「回収を待つ」のではなく「つなぎの資金を確保する」のが当面の最優先です。動き出しが早いほど、選べる手段は多く残ります
資金繰り表の作成、公庫や保証協会への申込書類の準備、金融機関への説明資料づくりなど、当事務所でお手伝いできることが多くあります。全東信との取引があった方、資金繰りに少しでも不安を感じた方は、どうか一人で抱え込まず、早めにご相談ください。
出典
- 経済産業省「全東信の破産手続開始により影響を受ける中小企業・小規模事業者への支援を実施します」(2026年7月10日)
- 日本政策金融公庫「株式会社全東信の破産手続開始により影響を受ける皆さまへ」
- 日本経済新聞「全東信破産で相談窓口全国378カ所に 経産省が資金繰り支援」
※本コラムは2026年7月10日時点の情報に基づき作成しています。支援策の内容・指定状況は今後更新される可能性があるため、最新情報は各機関の公式サイトでご確認ください。

