「ネットで調べたら、もう自己資金の要件はなくなったと書いてありました。自己資金ゼロでも創業融資は借りられますよね?」
最近、創業を予定されている方から、このようなご相談をいただく機会が増えました。確かに2024年3月末で日本政策金融公庫の「新創業融資制度」は廃止されました。引き継がれた現行制度である「新規開業・スタートアップ支援資金」には、制度上の自己資金要件(創業資金総額の1/10以上)が存在しません。

日本政策金融公庫HP 新規開業・スタートアップ支援資金の概要 より
自己資金ゼロでも融資はOK!!! という情報は、半分正しいですが、危険です
「新規開業・スタートアップ支援資金」には自己資金要件はありませんが、これを「自己資金ゼロでも融資が通る」と解釈するのは危険です。制度のルールと、実際の審査の現実には大きな差があります。本記事では、その「差」の部分を、融資実務の視点から解説します。
制度上の要件と、審査上の評価は別物
まず整理すべきは、次の2点です。
- 制度上のルール:申し込みが「できる」かどうかを決める最低条件
- 審査上の評価:融資が「通る」かどうかを決める総合判断
旧制度で「自己資金は創業資金総額の1/10以上」と定められていたのは、あくまで申込の最低条件でした。現行の「新規開業・スタートアップ支援資金」ではこの形式要件が撤廃されましたが、審査において自己資金が重視されるという運用は変わっていません。
公庫の担当者は、自己資金がどの程度あるか、どのように貯められたかを、申込者が提出する通帳の過去半年〜1年分の履歴から必ず確認しますし、面談でも必ず聞かれます。
自己資金が審査で重視される3つの理由
公庫の審査担当者が自己資金を重視するのには、明確な理由があります。
① 事業への本気度の表れ:計画的にコツコツと自己資金を貯めてきた経緯は、「この事業のために準備してきた」という証拠になります。
② 返済原資の余力:創業直後は想定通りに売上が立たないことが多く、自己資金が返済の支えとなります。
③ 「見せ金」でないことの確認:申込直前に急に残高が増えていると、親族や知人から一時的に借りた「見せ金」を疑われ、大きなマイナス評価となります。
自己資金として「認められるもの」「認められないもの」
【認められるもの】
- 自分でコツコツ貯めた預金(最も評価が高い)
- 配偶者名義の預貯金(同意があれば)
- 親族からの贈与(贈与契約書があれば)
- 退職金(源泉徴収票などで証明)
- 保険の解約返戻金
- 資産売却による資金(不動産、株式など)
【認められないもの】
- 親族・知人からの「借入金」(返済義務があるため負債扱い)
- タンス預金(出所を客観的に証明できない)
- 消費者金融等からの借入
- 出所不明な入金
税理士の視点①:親族からの贈与と贈与税
自己資金を補う手段として「親からの贈与」は有効ですが、税務上の注意点があります。
年間110万円までは非課税(暦年課税の基礎控除)ですが、これを超える贈与を受けると贈与税の申告・納付が必要です。特に注意したいのは、受贈者1人あたりの合計額で判定される点です。たとえば父から100万円、母から50万円の贈与を同じ年に受けると、合計150万円となり、40万円が課税対象になります。
また、創業を急がない場合は、数年に分けて年間110万円以下ずつ贈与を受ける方法も有効です。ただし、自己資金として認めてもらうには、以下の準備が必須です。
- 贈与契約書の作成(年ごとに別個の契約書として)
- 銀行振込で記録を残す(手渡しはNG)
- 贈与者(親など)の名前が通帳に明示されるように振込
なお、相続時精算課税制度を活用すれば、累計2,500万円まで贈与税なしで受贈可能です(2024年の税制改正で、この制度にも年間110万円の基礎控除が新設されました)。ただし、将来の相続税にも影響するため、安易に選択すべきではなく、税理士との事前相談をお勧めします。
税理士の視点②:「見せ金」の税務リスク
自己資金を大きく見せるために、直前に親族などから一時的にお金を振り込んでもらう行為は「見せ金」と呼ばれ、絶対に避けるべきです。
融資実務上のリスクだけでなく、税務上もリスクがあります。
- 親族から振込を受けたまま返済しなければ、贈与税の課税対象となる可能性
- 返済していても、金銭消費貸借契約書がないと、税務調査で贈与認定されるリスク
- 無利息での借入は、利息相当額が贈与とみなされる可能性(年間110万円以下なら実務上問題は少ない)
公庫は申込前の半年〜1年分の通帳履歴を精査します。急な入金は必ずチェックされ、説明がつかなければ「見せ金」として疑われ、審査上きわめて不利になります。
実務上の「通る自己資金水準」
では、実務ではどの程度の自己資金があれば審査を通過しやすいのでしょうか。一般的には以下が目安です。
- 最低ライン:創業資金総額の10%程度
- 望ましい水準:創業資金総額の20〜30%
- 融資額の目安:自己資金の2〜3倍程度
例えば、800万円の創業資金が必要な飲食店開業の場合、自己資金が80万円(10%)あれば申込は可能ですが、実務では200万円(20%~30%)前後の自己資金を用意し、借入希望額を400〜600万円に抑える方が審査を通過しやすい傾向にあります。
自己資金ゼロでも道がないわけではない
とはいえ、自己資金がほとんど用意できない方にも、活用できる選択肢はあります。
- 特定創業支援等事業の認定:市区町村が実施する創業支援セミナー等を修了すると、自己資金要件や金利面で優遇される場合があります
- 同業種での勤務経験をアピール:長年の経験は自己資金を補う評価要素になります
- 配偶者や親族からの贈与の活用:出所が明確であれば自己資金として認められます
- 創業計画書の完成度を高める:事業の実現性で評価を補う
申込前の準備が、結果を大きく左右する
自己資金は一朝一夕には貯まりません。そして、通帳の履歴は過去半年〜1年分までさかのぼってチェックされます。つまり、創業融資を検討し始めた段階から、計画的な自己資金の積み立てと、記録に残る入金経路の整理を始めることが重要です。
まとめ
今回は、自己資金がゼロで新規開業・スタートアップ支援資金の融資を受けることができるかどうかについて解説しました。結論、100%融資NGというわけではありませんが、融資を受けたい場合は自己資金は確実に貯めておくようにしてください。
ペネトレイト会計事務所では、創業融資に強い税理士事務所として、自己資金の整え方から贈与税対策、事業計画書の作成、面談対策までトータルでサポートしています。「自己資金が不安」「親からの援助を受けたいが税金が心配」といったお悩みは、お気軽にご相談ください。

