日本政策金融公庫から創業時に融資を受けたことがある方にはお馴染みかと思いますが、日本政策金融公庫の創業融資には「新規開業資金」と「新創業融資制度」の2種類ありました。どちらの制度を利用して融資を受けるかは、融資の面談時に担当者と話し合って決めていたのはよくある話でした。
その「新創業融資制度」ですが、実は令和6年3月をもちまして廃止されました。廃止と聞くと改悪!?という印象をお持ちの方もいらっしゃるかと思いますが、そんなことはありません。逆に新規開業者に対する支援が手厚くなり、利便性がグンと向上しました!
今回は、その変更内容について詳しく解説していきます。
令和6年3月まであった新創業融資制度と新規開業資金の違い
2つの制度の違いを簡単にまとめると下記のようになります。
新創業融資制度 | 新規開業資金 | |
制度の対象 | ・新たに事業を始める人 ・事業を始めてから税務申告を2期終えていない人 | ・新たに事業を始める人 ・事業を始めてから概ね7年以下の人 |
融資限度額 | 3,000万円(うち運転資金1,500万円) | 7,200万円(うち、運転資金4,200万円) |
担保・保証人 | 原則として不要 | 原則として必要 |
前述のとおりどちらの融資制度を利用して融資を受けるかは、融資面談時に担当者と話し合って決めることが一般的でした。また、新規開業資金はそれ単体で利用することが可能ですが、新創業融資制度は新規開業資金とセットで利用しなければならないということもあり、少し煩雑な制度であったと思います。
令和6年4月1日から何が変わるのか
新創業融資制度が廃止された
前述の新創業融資制度が廃止されました!廃止されたとは言えども完全に無くなったわけではありません。
新規開業資金に吸収されたというイメージです。
変更点 概要
変更点は大きく4点あります。
日本政策金融公庫HPより ニュースリリース 2024年4月1日
変更点① 融資が無担保・無保証人に!
以前の創業時の融資制度では基本的には担保・保証人が必要でした。担保や保証人が必要であったため、起業をあきらめてしまう人も多かったと思います。
今回の変更では、
- 新たに事業を始める方
- 事業開始後税務申告を2期終えていない方
は、無担保・無保証人で新規開業資金に申込が可能となりました!!
変更点② 自己資金要件が撤廃
以前は、創業時において融資申込額の1/10以上の自己資金があることが要件になっていました。
例)1,000万円の融資の申込の場合は、最低でも100万円の自己資金(1,000万円×1/10)を貯めて持っておく必要がありました。
この自己資金要件を満たすことは融資審査の中で重要視されている一つであり、
- いくら貯めたのか
- 誰が貯めたのか
- どうやって貯めたのか
- いつから貯めたのか
などを細かくチェックされていた部分になります。お金を貯めることだけではなく、支払いを毎月キッチリ行っていたかなども細かく見ています。融資面談の際に個人の通帳を確認される理由がこちらになります。
また、実際に現場は、自己資金は融資申込額の1/10では足りず1/3ぐらいは必要だというのが通説でありました。
この自己資金要件が、今回の変更で無くなりました。
要件が無くなったからと言って、審査対象から外れたというわけではありません。従来通り、自己資金をしっかり貯めて行う方が融資の確率が高くなると考えられますので、十分に注意してください。
変更点③ 融資限度額が大幅に増額/返済期間と据置期間も延長
以前は融資限度額が3,000万円(うち運転資金1,500万円)でした。この枠が7,200万円(うち運転資金4,800万円)と大幅に増額されました。
また、返済期間に関しても、運転資金は7年以内でしたが、10年以内に延長され、さらに据置期間も2年以内から5年以内に延長されました。
(例)以前の制度
融資額 運転資金 1,500万円 返済期間7年 据置期間2年 残り5年で返済
(例)変更後
融資額 運転資金 4,800万円 返済期間10年 据置期間5年 残り5年で返済
ということが可能になった。というわけです。
変更点④ 利率を一律 0.65%引き下げ
新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方は、原則として利率が0.65%引き下げとなります。
また、融資の目的が雇用の拡大を図ることによる場合は0.9%引き下げとなります。
これにより、返済の利息負担を抑えることができます。
変更点 まとめ
上記をまとめますと、従来の制度から拡充されて日本政策金融公庫から融資を受けやすくなったということになります。
それ以外に実は変更になった箇所がいくつかあります。
以前の新創業融資制度ですと
融資限度額3,000万円(うち運転資金1,500万円)と公表されていました。しかしながら、現場では1,000万円までしか融資が受けられないというのが、こちらも通説でありました。
今後は、事業開始前であれば3,000万円、事業開始後税務申告を2期終えていない、かつ、ある程度の売上実績がある場合には6,000万円まで融資が受けられる可能性があるようです。
こちらも併せて考慮していただくと、より日本政策金融公庫から融資が受けやすくなったことを感じていただけるかと思います。
令和6年4月1日~創業時の融資として使える新規開業資金の概要
新規開業資金の概要については下記のとおりです。
対象者 | 新たに事業を始める方または事業開始後概ね7年以内の方 |
資金用途 | 新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金 |
融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) |
金利 | 基準金利 |
返済期間 | 設備資金20年以内(うち据え置き期間5年以内) 運転資金10年以内(うち据え置き期間5年以内) |
日本政策金融公庫HPより 新規開業資金
創業時の理想的な融資のスケジュール
今回の日本政策金融公庫の融資制度の変更により、創業時において理想的な融資のスケジュールを考えることができました。
スケジュール | 目的 | 金融機関 | 融資制度 |
創業前 | 創業資金 | 日本政策金融公庫 | 新規開業資金 |
創業後~5年 | 成長資金 | 民間の金融機関 | スタートアップ創出促進保証制度 |
日本政策金融公庫の新規開業資金は創業前に申し込むのが得策です。創業後、思った以上に業績が上がらなかったり、資金が不足してから申し込むと審査に悪影響を及ぼす可能性が高まります。創業前の意識が高い段階で創業計画書や事業計画書の解像度をあげて創業資金として申込を行うことをオススメします。
また、創業後~5年までは、民間の金融機関で無担保・無保証人のスタートアップ創出保証制度の融資の申込が可能です。創業後からある数年実績を積んでいただいて、さらに成長資金として資金調達が必要な場合は、この制度を利用して融資を受けることが理想的なスケジュールであると考えられます。
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まとめ
今回は、令和6年4月1日から変更になりました日本政策金融公庫の創業時の融資制度について解説しました。拡充となる変更内容でしたので、これから起業される方においては使い勝手の良い融資制度となりました。ただ、この制度を利用するためには、以前にありました「新創業融資制度」の内容を十分に理解しておく必要があります。特に自己資金要件の部分です。
「よし!自己資金10万円で起業しよう!創業後の必要資金は全額融資で!」
このようなことを考えている方は要注意です。要件的には可能であったとしても、融資の審査が通るかどうかは別の問題です。融資の確度をあげるためには、創業前にしっかりした創業計画書や事業計画、自己資金の貯蓄など必要不可欠な箇所が多くあります。
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